【体育文化が阻害する?日本のe-sports】
「sports」という単語を英和辞書で調べると「運動競技(集合的にも個々の競技にも用いる)」とある。またFishing、Huntingなど勝敗を争わないものも含む、ともある。
つまり「釣り」や「狩り」などもsportsとして含まれていることになる。(勝敗を争わないとはいえ釣果や獲物数で争ったりはされているが)。
また「娯楽」、「楽しみ」、「気晴らし」という意味もあわせて書かれている。このように、sportsという単語は本来英語圏において、幅広い意味を含んでいる言葉であることがわかる。
米国ではレジャーとしてのフィッシングを「スポーツフィッシング」と呼び、漁業関連を「コマーシャルフィッシング」と呼んでいる。この使い方でいくと「スポーツフィッシング」といえば、ごつい装備でキャッチアンドリリースを重ねる釣りだけではなく、釣り堀でのんびり釣る行為も「スポーツフィッシング」に分類される。
ゆえに本来は、「遊び」全般に使える単語が「sports」なのである。
日本ではそのままカタカナで「スポーツ」として使われているが、筆者にはどこかスポーツ≒体育という文脈で捉えられているイメージが感じられる。
『身体修練の一環としての「体育」として「運動」を行う』これが日本でのスポーツの一般認識となっているのではないだろうか。
『「e-sports」は「スポーツ」なのか否か』などという論議は「sports」という言葉が本来持っている「(競技性を持った)娯楽、楽しみ」といった要素を考えればそもそも議論になる余地なく「スポーツ」と呼ばれるべきなのである。
ところがそこかしこで、こういった議論が起きる。「ゲームはスポーツじゃないだろう」と。
日本は特に、同調圧力が強いてらいがある。こういった目に見えないスポーツ≒体育という「意識」は意外と厄介で、今後日本の「e-sports」がスポーツ=競技として興行的に大きくなっていく際の障害になりえる一因になるのではないだろうか。
筆者の危惧は「e-sports」よりはるかに歴史のある「モータースポーツ」でさえ「スポーツ」として認識されているかどうかすら怪しい状況からもお分かりいただけるだろう。
曰く「身体を動かしていないから」、モータースポーツは「スポーツ」とは捉えない、という解釈である。
日本は2輪も4輪も世界に冠たる生産国だ。カートやミニバイクなどの底辺カテゴリーから世界選手権まであらゆるレースが国内のサーキットで開催されているのにも関わらず、モータースポーツは(F1バブルの頃を除き)「スポーツニュース」ではほとんど取り上げられないのが現状だ。
1昨年の佐藤琢磨のインディ500優勝も昨年のトヨタのル・マン24時間優勝もそれぞれ世界三大レースの一つを制した快挙(テニスでいうと大坂なおみの全米・全豪オープンの優勝と同じようなものである)の割には報道は少なめなイメージを筆者は持った。日本のマスメディアのモータースポーツに対する報道バリューの小ささがあるとしても、やはりスポーツ≒体育といった意識があるから、このような状況が発生しうるのではないだろうか。
そのモータースポーツのトップカテゴリーであるF1は、e-sports大会を催しており現行F1チーム(フェラーリを除く)が参戦して、現実と同じようにメルセデスがチャンピオンとなった(https://e-spo.net/201811/608/)状況は日本と世界と「sports」の認識の違いを感じる出来事である。
こういった日本の環境下において、e-sportsの浸透を図るとするならば、例えば体育文化の代表競技(そして必ずスポーツニュースで取り上げられる)の一つである「プロ野球」でe-sports大会がNPB公認で開催(https://e-baseball.konami.net/pawa_proleague/)されたというのは座組としては落ち着きやすいところなのかもしれない。もちろん筆者としては、実況パワフルプロ野球というほぼ日本でしかプレイされないゲームを扱うというガラパゴス性も含めてそう見ている。ちなみにサッカー協会に比べて保守的なイメージの強いNPBがこのような割と早い段階でe-sports施策を行ってきたのは個人的にはちょっと驚きだったが。
この1〜2年、テレビメディアで「e-sports」が取り上げられる機会も増えてきたが、その多くは新しい文化、潮流に対するドキュメンタリー、あるいは最新トピックとしての取り上げ方が殆どを占める。
現状、日本においては市場黎明期であるから仕方ないとはいえ、「スポーツニュース」の1コーナーとして「e-sports」が取り上げられる。そんな日はいつかくるのだろうか。
筆者としては「スポーツ≒体育」ではない、本来の「sports」が意味として持っている「娯楽」、「楽しみ」といった意識が少しでも広がって、日本でe-sportsが「スポーツ」として認知、普及してほしいと願うばかりである。
文責:土田耕平